イノベーション&チャレンジデー 特別対談「DXから語るこれからの関西・西日本」

 

2022年11月9日14時30分。イノベーション&チャレンジデーの中でも注目のパネルディスカッションが幕を開けた。登壇者は、関西のビジネス界をリードするマッキンゼー・アンドカンパニー・ジャパンの北條元宏関西オフィス代表、データインフォームドの先駆者である株式会社ギックスの網野知博CEO、そしてJR西日本デジタルソリューション本部長の奥田取締役だ。他では見ることのできない3名が、関西経済・DX・JR西日本の未来を語り尽くした。今回はそのディスカッションを特別にお届けします。

 

〇第1部 プレゼンテーション概要

 第1部は北條代表と奥田取締役によるプレゼンテーション。北條代表からは「関西」についてマクロな視点で、奥田取締役からは、コロナにおける厳しい経営状況の中でJR西日本がどのような打ち手を繰り出したか語っていただいた。

【北條】世界が大きな転換点を迎える中で、都市の重要度が増している。その中で「関西」は、世界的に見ても人口減少や経済成長において危機的な状況にある。しかし、優位性のある条件がそろっているのも「関西」。ポテンシャルは高い。その中で、世界における都市間競争力を上げるカギは、「連動・連携」。個別企業がバラバラに活動するだけではなく、企業・産業横断そして自治体を含め都市としてのエコシステムを築き、基盤継続性と生活体験を向上させることが大切。

【奥田】コロナによりJR西日本は経営に大きなダメージを受け、鉄道一本足打法のビジネスモデルは限界となった。コロナ後の世界における新しいJR西日本グループの姿としてDXを主軸に改革を実施。移動に頼らないビジネスモデルの構築を目指している。その中でギックス様と協力しながら、様々なシーンの行動・購買のデータを繋いで、WESTERを軸とした顧客体験の再構築に取り組んでいる。

 

〇第2部 パネルディスカッション

第2部のパネルディスカッションでは、JR西日本イノベーションズの奥野を司会に、プレゼンテーションの内容も含めて登壇者へ深掘り。普段では聞くことができない話も飛び出した。

(奥野)本日は「DXから語るこれからの関西・西日本」と題しまして3名に語っていただきます。まず始めに、網野様よりJR西日本との協業の経緯などついてお聞かせください。

(網野)2018年にJR西日本イノベーションズから出資を受け、JR西日本とは約4年間、データ利活用に関して協業しております。これまで約50件のプロジェクトをご一緒させていただきました。人材育成の面でも、当社で約10名のJR西日本社員の出向を受け、データ利活用のスキルとベンチャーマインドを学んでいただきました。昨今、大手企業が社員全員にDX教育を実施したなどの記事を見かけますが、JR西日本は地に足の着いた堅実な取組をしていると感じます。

(奥野)ギックスの理念には、データインフォームドという言葉がありますが、聞きなれない人のためにどのようなものか教えてください。

(網野)ビジネスにおいては、データのみ、または勘や経験のみで経営判断をすることは少なく、ほとんどの場合はデータを用いて人間が判断を行います。データから導き出される発見や示唆を人間の判断材料として活用していくことが「データインフォームド」です。我々ギックスは、テクノロジーを用いてコンサルティングを行い顧客の課題解決をする会社だと考えています。

(奥野)一方、マクロな視点から見た時に、JR西日本に期待することは何でしょうか。

(北條)ユーザーにとって生活視点であることや連続性のある顧客体験が大切ですが、業界内や業界間の壁が立ちはだかります。それを取り払うリーダー的存在には、組織の大きさだけでなくやりきるための強い思いやしつこさも必要です。関西地域を代表する企業であるJR西日本には、ぜひ自社目線だけでなく、生活者目線をもってリーダシップを取ってほしいと思います。

(奥田)ありがとうございます。JR西日本グループのデジタル戦略を進めるにあたり、それぞれに想いを持つグループ会社をまとめていくことが大変でした。ただ、コロナによるピンチをチャンスに変えようという気持ちがグループ全体にあったのでここまで進めることができました。良かったと思う点は、グループデジタル戦略を世の中に発表したこと、そして社長をデジタルソリューション本部のトップにしたことです。

(奥野)組織を貫くということについて、データインフォームドはどう生かされるのでしょうか。

(網野)DXとは、サービスや利便性の向上のために、デジタルの力を使って組織や企業や業界を跨いで貫いて変わることだと考えています。組織内のデジタル化による仕組みづくりは本当のDXではありません。組織を貫くデジタル改革は簡単ではないですが、データの良いところは、縦割りの部署や組織に忖度することなく、自社の部署や組織を跨いで動いているお客様やモノの動きが可視化されることです。お客様や物やデバイスの動きをデータで見れば、この課題解決は組織を貫いて変わらないと解決できないということが明らかになります。これが、組織の壁を壊すための大切なポイントになります。

(奥野)データは大切な経営資源ですので、企業・組織の中に閉じ込められてしまうこともあるかと思いますが、JR西日本の取組みの中でデータを活かすうえで工夫されたことはありますか。

(奥田)分野毎にマーケティングのチームを立ち上げ、データを見る力と仮説検証力を持った人材を、ギックス様に伴走いただきながら育成しています。グループ会社にも人材面でご協力をいただき、人材育成・成果創出に向けた準備をしているところです。ここから更なる飛躍をするために、権限や予算をどの程度獲得できるかが次の私の仕事になってきます。

(奥野)元部下として、デジタルが苦手だった奥田さんがここまでデジタルを推進する立場になるとは正直驚いています。一方で、都市間競争力という切り口で、JR西日本は関西そして西日本においてどうあるべきと考えますか。

(北條)ぜひ西日本の代表企業として様々なチャレンジをしていただきたいと思っています。関西という収益規模的には安定した地域において、鉄道ネットワークを活用し、日本のまだまだポテンシャルのある広域なエコノミーに取り組んでほしいです。既存サービスをしっかり維持しながら、次の時代に注力しないといけない分野を見極め実行する。トップの方針もとても大切だと考えます。

(奥野)今回のイベントは、JR西日本グループ以外の方々をどう巻きこんでいくかというところもテーマです。データインフォームドという観点で何かアドバイスはありますでしょうか。

(網野)データを1社で独り占めし、それを使ってマネタイズをするような姿勢では消費者からは当然反感を買います。そうではなくて、組織や企業や業界を跨いでデータを活用し、顧客に利便性や面白さや心地よさといった価値を提供することが大切で、マネタイズはある意味結果として付いてくるものだと思っています。サードパーティーとも協力し、顧客のために、また関西圏の産業活性化のためにみんなでデータを活用しあうことで、顧客にもエリア住民にも行政にとっても良いサービスを提供できるような姿が望ましいと思います。

(奥野)2025年に大阪・関西万博があります。この万博に向けて我々は何をしていくべきでしょうか。

(北條)万博を契機に、街として共生的な共有空間が生まれるのは良いことだと考えています。投資も集中するこの機会に、みんなで関西をどうするかという議論を重ね、協力体制を作っていくには絶好の機会になると思います。

(奥野)変革を起こそうとする中で、経営トップがアナログでジレンマを抱えている方も多いと思います。デジタルやデータという観点でこれを打ち破るアドバイスはありますでしょうか。

(奥田)残念ながらJR西日本は、デジタルの面で遅れている会社だという認識がありました。これを大胆に変えていくために、例えばoffice365導入の際の手続きも社長をはじめ役員も自ら行っていただきました。小さなところでも、全員の意識を変えるためにはまずはトップからということですね。

(奥野)本当にそれは大切なことですね。さて、議論は尽きないですが、そろそろお時間が来たようです。最後に皆様からメッセージをお願いします。

(北條)今はまさにあらゆるものが大きく変わる大変革時代だと感じています。過去の経験からしても、先ほども話にありましたようにトップの役割がどんどん大切になります。トップが主体的に発信を行い、自ら動くことが求められる時代ですので、それを心掛け、またそういうマインドセットをもつ次の経営者をどう育てていくかということが課題であると考えています。

(網野)デジタル人材が足りないとよく言われますが、それ以上に出てきたデータを利用してビジネスの判断をしていく人材も不足していると感じます。データサイエンスやAIやディープラーニングなど難しい技術名に抵抗感を持つ人もいます。データインフォームドは技術名ではなく、行動様式であり、簡単に言えばデータに基づいて論理的に考え、合理的に判断するということです。データを用いる業務変革で企業の競争力を強化できると信じており、この分野で日本の産業の発展に微力ながらも寄与できればと考えています。

(奥田)JR西日本グループは地域の人々との安心・安全・信頼を大切にしてきた自負があります。この信頼関係があるから与えていただけるデータがあり、それを活用する力が徐々についてきました。既存のリアルなサービスに加えデジタル空間を作り、ここをドライバーとしながら、既存事業の構造改革を図っていきたい。徹底的に個の顧客体験にこだわり、そこから新たな価値を産み出し事業化し、既存事業をさらに磨くというサイクルを作りたい。このような世界観を西日本から世界へ描けるような会社に変えていきたいと思っています。

(奥野)「DXから語るこれからの関西・西日本」について大変有意義なご意見・ご議論いただきました。皆さま、本日はありがとうございました。

 

【登壇者のご紹介】